今日の急速なIT需要の拡大により、PM(プロジェクトマネージャー)の役割も多岐にわたるようになり、その重要度が増しています。しかしながら今は、大学生の理系離れや、激務の割に待遇に恵まれないといった理由で若手のシステムエンジニア(以下SE)離れが進んでおり、SE経験を積んでなるPMの確保がより困難な状態となっております。
そのため、PM人材の育成や供給が需要に追いつかず、業界自体が「着手したいプロジェクトがあるけれど、PMの適任者が確保できない、SEも足りない」といった、人材不足にあえいでいる状態です。そこで今回は、SI(システムインテグレーション)業界におけるPMの役割と、人材不足の解消を目的とした、シニア層やアウトソーシング活用の今後の展望について解説します。
楽観視できないSI開発の現状
SI(システムインテグレーション)とは、一からプログラムを作り上げるサービスのことを指します。SI開発を行うためには、多くのSEが必要となりますが、現在の日本はこのSEが全く足りていない状態です。
急激なITの普及・不足するSE
1990年代から始まったITの急激な普及に対して、SEの育成は充分に進まず、既存のIT技術者の高年齢化や退職時期も重なり、SI業界は常に慢性的な人手不足となっています。
大手SI開発会社のSE不足を、下請け企業からの社員派遣で補うことが常態化しているため、実際の作業者となるSEの待遇がなかなか向上しないこともSEが増えない要因の一つでしょう。また、IT技術が日々の躍進するため知識の更新が常に必要な点、若者の理数離れもSE育成の妨げとなっています。
人材派遣で業務を補う現状
長期的な観点から見れば、SE不足を補うため、自分たちでSEを育成していくことは非常に大切です。しかし、SEが足らず現在の業務がこなせない場合、育成は脇において人材派遣に頼ることになります。派遣される人材の質は、全くの実務未経験者から独立したフリーランスSEなど派遣会社によって大きく異なり、人材に合わせた対応が必要です。
自社の社員ではない派遣社員には、時間をかけてまでSEの先にあるPMになるための研修も行わないません。そのため、ますますPMが育成されにくい状況になています。
SIにおけるPMの役割とは?
PMとは、SEの中でもプロジェクト全体を管理する責任者を指します。PMになるには、SEとしての5~10年の実務経験と、チームリーダー(以下リーダー)の実績が必要です。
PMの役割は、プロジェクト遂行に必要なすべての準備と調達、進捗管理を行い、システム構築を完遂させ、製品として稼働させることです。この使命遂行のためには、5つの重要タスクがあります。
プロジェクトの企画
クライアントと共に、開発の利用目的や規模、必要とされる機能や仕様などの要件定義、ゴールの設定を行います。続いて、設計やプログラミング、テストなどの各工程に対して工数を確認し、予算と納期に整合性があるかの確認も必須です。
そのうえで、PMやSE、プログラマーが何人必要かといった人員計画、作業環境や利用するツール、リスク回避対策を考慮した作業計画を立てます。プロジェクト始動前までに、作業計画に沿った人員の調達や設備調整を行います。
見積工数のカウント
実際の工数カウントは現場で担当するリーダーが行う業務ですが、PMが責任を持って工数の妥当性を総合的に評価・判断します。
時には経験豊富なPMでも、経験したことのない初めての工程やタスクが発生します。その際は、経験者のリーダーと工数を相談・精査し、プロジェクト全体の工数をできる限り正確に把握しなければなりません。
チームリーダーの選定
未来のPMとしての資質を持つ技術者を、リーダーとして選定します。
リーダーは、チームに割り当てられたタスクの経験者が相応しく、チームの工数と所要時間を正確にカウントし、PMに伝達できる能力やリーダーシップが必要です。
また、技術者としての力量のみならず、リーダーとしての統率力やメンバーの管理能力も問われます。
メンバーのスケジュールと品質の管理
プロジェクトを納期内に完遂させるため、メンバーやチームが計画通りに各工程に着手できているか、作業の品質は落ちていないか気を配りながらプロジェクトを進めます。
また、メンバーの欠員や工程の遅れなどの場合は、具体的な対応策を決定し、誰が、何を、いつまでに、どうするのかを指示が必要です。関連メンバーのスケジュール管理や作業の品質管理にも努めなければなりません。
時には、メンバーの健康面やメンタル面の支援も行います。
リスクマネジメント
トラブルが起こりえるケースを予想し、発生時の対応を決めておくことで早い終結に導きます。徹底した準備を行っても、プロジェクトにトラブル発生はつきものです。
初期段階でトラブルをコントロールし収束させるためには、適切なチェックを実行し、トラブルを早期発見することがとても重要です。
プロジェクト完了報告
リリースした製品のレビューを実施します。
製品の問題点とそれに対する解決策の提案、包括的な評価などを含んだ情報を、プロジェクト完了報告書として資料を作成します。相手に的確に伝えられるよう明確な書き方をしましょう。
PMに求められるもの
数多くのSEが所属するプロジェクトチームをまとめ、開発プロジェクトを完遂に導くことがPMの役割です。この役割を果たすために、PMに求められるさまざまな能力について見ていきましょう。
幅広いテクニカル知識
PMはプロジェクト全体を俯瞰して管理する役割があるため、各工程の作業内容や顧客の業務内容、開発に使われる技術などIT分野全域における幅広いエンジニアとしての知識も要求されます。また、各工程の担当者や顧客との直接やり取りする機会も多いため、こういった知識や業界の情勢を、わかりやすく伝えるための能力も必要です。
コミュニケーション能力
PMに最も必要とされるスキルが、このコミュニケーション能力です。チームメイトの能力の把握と適切なタスクの割り振る采配力、チーム間の連携を円滑に行うための調整力、トラブルが起こった際の顧客や関連部署への折衝能力、これらを行うためのコミュニケーション能力はPMには欠かせません。どんな業務でもこのコミュニケーション能力は必要ですが、PMはさまざまな立場の人の間に入り、互いの意見を調整していく必要があるため特に重要視されます。
プロジェクトマネジメント能力
PMの本来の役割でもあるプロジェクトを円滑に進めるための管理能力です。この能力が高ければ、全体の納期やコストを抑えつつ、それぞれの工程で起こりうるトラブルなどを想定・回避し、プロジェクトを成功に導くことができます。各工程での作業工数、内容といった業務に関わる知識や全体のコストバランスを図り、企業としての利益を確保する計算力も必要になります。
リスクマネジメント能力
WBS作成でのタスク細分化の際、プロジェクト進行中に起こりうるトラブルも予想し、前もって対応方針を固めておく能力が必要です。
また、成果物の稼働開始直後の予期せぬエラー発生に備え、従来のシステム運用に一時的に戻すという、避難場所的な対策や準備も怠れません。
PM資格の取得で能力を証明する
社内でのSE育成がままならず、派遣やフリーランスのSEやPMが増える中で、PMとしての実績を積み上げることが困難になってきています。実績がなければPMの仕事を得ることは難しいため、PMの能力を証明する資格を取得するSEが増えています。
PMの資格とは
日本で取れるPMの資格には「PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)」と「PM(プロジェクトマネージャー試験)」、「P2M」などがあり、いずれも試験の難易度が高く、取得が難しい資格です。しかし、PMとして必要なスキルである、システム全般に関する基本的な知識、さまざまな制約の中でプロジェクトを完遂させるマネジメント能力、プロジェクトの計画立案とリスク管理能力、失敗や成果に対する分析能力などの証明が受けられるため、PMとしてのスキル証明として充分な効力が期待できます。
SEからPMへのステップアップ
慢性的な人手不足からSEの教育すらままならない現状であるため、自社でPMを育成することが難しくなっています。PM業務未経験のSEが、PMの仕事を得ることが難しいため、フリーランスや派遣、社内で機会を得られないSEの中には、PM資格を取得してPMを目指す人も増えてきました。
PMにステップアップする優秀な人材は、より流動的な動きをとるため、SI開発企業はますますPM確保に苦慮することになるでしょう。
シニアPM・SIへの期待
引退間近あるいは引退されたシニア層のPM・SEには、多数のプロジェクトに携わった経験を活かして活躍できる場が、ここ15年ほど増えています。
シニアPM・SEに期待されている役割について見ていきましょう。
一般企業のマネジメントスタイルの変遷
SEは専門職としての意識が強く、人材のターンオーバーも高い職種です。
また、業務特性上、横並びの組織体制が多いこともあり、縦割りの組織を統括、牽引して結果を出していく一般企業のリーダーや管理職というものに馴染みがなく、戸惑う人も多いでしょう。 ですが、昨今は、このような上下関係にとらわれないプロジェクト方式のマネジメントスタイルを求めている一般企業も多々存在するので、シニア層の活躍も期待できます。
PM経験者のポテンシャル
PMには企業の管理職やマネージャーよりも高い対人交渉力が求められます。
プロジェクトに関わる全てのステークホルダーに対し、各社の立場を理解しながら、最適解へと誘導していくという
「コミュニケーションスキル」、「交渉力」、「調整力」は、どのような業界でも求められる能力なのです。
シニアによる若手SEの育成
近年のSE不足は、団塊の世代にあたる初代国産SEが2007年以降大量に退職したこと、育成環境や労働環境の整備不足で若手のSE離れが多い、などが要因に挙げられています。 日本の高度成長期やバブル経済期を支えてきた世代のSEは、現在の若手より、大きなプロジェクトをたくさん経験しています。
当時はIT関連の専門書も少なく、インターネットも普及していません。
社会人のSE教育プログラムなどもなかった時代、OJTと独学のみでスキルを磨いてきたのです。こういった人材の知識や経験を企業が有効活用し、より実践に近い良質な教育プログラムの立ち上げに一役買うことは、SE・PMの人材不足の解消に繋がると考えられます。
頼れるSIerアウトソーシング
今後のシニア層の活躍が期待されるSI業界ですが、やはり今日まで業界を牽引してきた SIer企業のアウトソーシングは頼れる存在です。
最近では、SE育成に力を入れたり、各種ビジネスとITをさらに融合させた独自のコンサルサービスを展開している企業もあり、業務IT化の推進により、働き方改革に貢献しています。
Mamasan&Company株式会社
主にキャリア中断中の子育て中のママさんが在籍する、在宅ワーク企業です。
SE、プログラマ、ウェブデザイナーから経理、人事、総務、翻訳などの各分野のプロフェッショナルが、高度なIT技術を駆使した万全のセキュリティ環境下、様々な働き方で業務に従事しています。
近年は主にIT分野で、ダブルワークの男性やシニア層の活躍が増えている企業です。
https://mama-sun.com/jp/
TISソリューションリンク株式会社
金融システムのSI構築を得意とするSlerです。
顧客に大手銀行、損害保険会社、生命保険会社、外資系金融会社などを持っています。自社の技術者を定期的に社内外への研修に参加させるなど、スキルアップのサポートが充実しています。
PM育成に積極的です。
https://www.tsolweb.co.jp/
アクセンチュア
世界最大の経営コンサルティングファームです。
様々な分野・産業に対し戦略、業務、IT、デジタル広告など多岐にわたる分野へのコンサルティングを提供しています。
また、世界有数のシステムの設計、開発、運用等をも手がけるITサービス企業です。世界的なシステムインテグレーション企業のアウトソーシング化の流れに先立ち、近年はアウトソーシングにも注力しています。
https://www.accenture.com/jp-ja/
まとめ
PMは技術者でありながら、社内外で通用するマネジメント能力も兼ね備えた人材です。
IT分野のみならず、管理職として会社の運営に貢献できる可能性も秘めています。
シニアPM・SEの活用により、現状の慢性SE不足に一石を投じるような、改善策や取り組みが生まれるかもしれません。
若手の育成環境の普及も大切である一方、若手のSE離れに歯止めをかけるべく、SEの待遇改善への着手も大きな課題です。この問題に対しても、企業の管理職候補となりうるシニアPM・SEの活躍が期待できるのではないでしょうか。また、SIを担うアウトベンダーも、PM・SE不足を解決すべく、自社でのSE育成環境を充実させスキルアップを図るなど、積極的に様々な策を打ち出すようになりました。現在のPM不足を解消するためにも、アウトソーシングの活用やシニア技術者の雇用も積極的に行うことをおすすめします。
この記事は役に立ちましたか?
ご不明点がございましたら、
以下のフォームにてお気軽にお問合せください!
記事についてのご質問
この記事について、あなたの「もっと知りたい!」にお答えします