人材不足はどの業界でも共通の悩みですが、プロジェクトの成功に欠かせないプロジェクトマネージャーの不足は、企業にとって深刻な問題となりつつあります。
需要が多いのに成り手が少ない理由としては、プロジェクトに関わる幅広い知識や高いマネジメント能力が必要とされるためと言えます。もはや自社のリソースでプロジェクトをやり遂げることに限界を感じてしまう企業も多く、その打開策として、外部へアウトソーシングする企業も少なくありません。
ここでは、プロジェクトマネージャー(以下PM)という仕事の役割や必要なスキルと資格について理解を深めるとともに、自社採用とアウトソーシングのメリット・デメリットを紹介しましょう。
PM(プロジェクトマネージャー)の必要性
プロジェクトは通常、複数人でチームを組んで仕事をします。PMが不在の中、チームの意見が分かれたときチームの方向性が定まらず、プロジェクトが迷走します。迷走し始めたプロジェクトでは、スケジュールの遅れが全体納期の遅れに繋がり、最終的に作業品質が落ちるなどプロジェクトへの悪影響が否めません。
また、プロジェクトチームのコミュニケーションにも問題が残り、社内の人間関係にも大きく影響します。プロジェクトを円滑に遂行するには、チーム全体をまとめ上げ、仕事がしやすいように統括するPMが必要不可欠と言えるでしょう。
PMの目的と役割を理解する
PMの最も重要な目的は、プロジェクトを成功させ企業に利益をもたらすことです。その目的を果たすための具体的な役割をみていきましょう。
プロジェクトを完遂させる総監督役
PMの仕事内容は多岐にわたるうえ、取引先との窓口となり交渉をするためコミュニケーション能力が欠かせません。そのため、イニシアチブをとれるだけの豊富な情報と知識、経験、業種によっては専門的な技術を持ち合わせることが求められます。
プロジェクトの企画管理や費用対効果の測定、能力に合わせた最適な人材配置などといった、リスクヘッジを図りながら成果物を可視化するまでの統括管理を行う役割を担います。プロジェクトチーム内にトラブルが無いか、常に心を配りヒアリングをするというホスピタリティをもつことも重要な要素です。
このように、オールラウンドな資質が要求される高度な仕事と言えます。
具体的な仕事内容
プロジェクトの開始にあたり、取引先のリクエストを詳しく正確に聞き取ります。そして取引先の要望を実現するため、取引先を交えて企画を立案し、目的や予算、納期を決めます。
次にプロジェクトの各工程に対して工数を割り出し、能力に応じた最適な人材を配置します。時には、取引先の無理な要求に対して、実現可能な提案をすることも重要な役割です。また、思わぬ事態にぶつかった際に影響を最小限に抑えるような工夫をし、問題点やそれに対する改善点の報告書を提出します。
そして、最終目標である計画どおりのものを作り上げ、プロジェクトを成功へ導き、会社の利益を上げることがPMの役割です。
PMに必要な知識やスキルとは
PMは、さまざまな専門的知識やスキルを持ち合わせると同時に、プロジェクトの管理や運営を行うマネジメント能力が求められます。
スキルは資格を取ることで身に付きますが、マネジメント能力は経験を積むことにより蓄積されます。
では、PMに必要なマネジメント能力とはどういうものなのか内容を見ていきましょう。
幅広い知識と多面的な理解力
PMの役割は、取引先の要望にいつでも柔軟に対応し、問題提起や強い意思決定を行い、プロジェクトを成功させることにあります。
それには、どんな問題にもスムーズに対応できるよう日ごろからチーム全体を広い視野でよく観察し、チームのメンバーと密なコミュニケーションを図ることが重要です。プロジェクト全体の情報収集と状況に応じ的確に指示を出す判断能力、プロジェクトの弱点を見抜く鋭い洞察力と幅広い知識を兼ね備えチームを導くことが責務です。
企業の顔として責任を負い、行程の遅れや成果物の品質トラブルに素早く対応をすることで、取引先からもチームのメンバーからも高い信頼を得ることになり、プロジェクト成功へとつながります。
つまり、PMに必要なマネジメント能力とは「幅広い知識」はもちろんのこと「対人関係能力」とプロジェクトの責任者として毅然とした対応をとる「行動力」が必要と言えるでしょう。
PMコンピテンシーとは
コンピテンシー(competency)とは、英語のコンピテンス(competence)からきており、特定の組織や職務領域において高い業績を上げる者にみられる、成果につながる行動特性をいいます。
優れた成果を発揮している人、仕事ができる人には、共通してその成果につながる行動特性があります。コンピテンシー活用の目的は、成果につながる行動特性を組織全体で共有し、向上させることによって、他のスタッフの人材育成に活用し、広く組織全体の成果を向上させることをです。
このようなコンピテンシーの活用は、より実践的な人材育成へとつながり、高い教育効果が得られるといえます。
近年日本では、年功序列から成果主義へと人事評価が変わったのも、このコンピテンシーが企業にも導入され重視されるように変わってきたからです。
PMコンピテンシーを磨く
企業の中で成果を生み出すためには、このコンピテンシーの活用は欠かすことができません。コンピテンシーを磨くためには、まず高い成果を出している社員の行動原理を具体的に書き出し、見本となるべくモデルを明確にする必要があります。こういった社員がいない場合は、既に体系化されたコンピテンシーを選び、自社の実情にあわせてカスタムして使いましょう。そして、見本となる具体的な行動を模倣させることから始めます。繰り返し模倣することで、その行動がパフォーマンスを上げるために必要とされる理由や目に見えない背景にまで理解が及ぶようになり、自分から新たな行動指針を生み出せるようになるでしょう。
そのためには、モデルとなった社員に丁寧な聞き取りを行い、より具体的な行動特性を可視化するとともに、細やかな評価体制が必要です。
評価者にとって負担は大きいですが、自ら成果を創造する社員を育成するためにも、辛抱強く取り組むことが必要でしょう。
PMに役立つ資格
PMに求められる役割は、プロジェクト全体の管理であるため、資格よりも経験が重視されます。しかし、資格の中には難易度の非常に高いものも含まれるので、実務経験が少ない場合は、資格を有することで専門的な知識の証明ともなり、社会的に評価が高まります。
ここでは、PMに必要なスキルが取得できる資格試験を4つ紹介しましょう。
PM(プロジェクトマネージャー試験)
プロジェクトマネージャー試験は、受験資格要件はありません。 プロジェクトの責任者として必要な知識やスキルを問われる資格で、計画立案、人員及び作業環境の確保、予算・納期・品質などの管理、プロジェクトの進捗状況やリスクを早期に把握し、対応できる知識習得を目標とした試験です。
試験では組織運営に関わる内容も出題されます。記述形式の出題が多く、論述的な文章を書く能力が求められます。合格率が14.1%(平成31年度)と低く大変難度の高い資格であるため、スキルのアピールとして大変効果的と言えるでしょう。
PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)
米国に本部があるNPO法人プロジェクトマネジメント協会(PMI)が実施及び認定している国際資格です。
試験問題は、プロジェクトの立ち上げから計画、実行、管理、コントロールなど、広く出題され難易度も高い資格と言えます。
受験資格要件に「プロジェクトマネジメントの指揮・監督する立場での経験」と「35時間の公式なプロジェクトマネジメントの研修の受講」が必要です。受講費用、受験費用ともに高めなうえ、試験合格後にもPMI会員の会費なども必要になります。
P2M
P2M資格試験は、特定非営利法人日本プロジェクトマネジメント協会が認定するPMに必要な知識やスキルを評価するための資格試験です。P2M資格制度は、以下の4段階から成り立ちます。「改訂3版プログラム&プロジェクトマネジメント標準ガイドブック」から出題されます。
こちらは、資格要件で大きく2種類に大別され、PMC講習会の修了者に限られるプロジェクトマネジメント・コーディネータ(PMC)資格、と資格要件の無いプロジェクトマネジメント・スペシャリスト(PMS)があります。
PMCは、プロジェクトマネジメントの範囲の知識が問われます。幅広い知識が必要な難易度の高い資格試験です。PMC資格を取得している人がPMSプログラム試験を受験して合格すると、PMS資格を取得出来ます。
PMSは、PMC資格試験に比べ難易度が下がり、事業経営基盤、知識基盤、人材能力基盤の範囲からバランスの良く出題される傾向です。PMS資格と3年以上の実務経験を経ると、プロジェクトマネジャー・レジスタード(PMR)を受験することが可能となります。
PJM-A(プロジェクトマネジメンント・アソシエイト)
PJM-A(プロジェクトマネジメンント・アソシエイト)資格試験は、一般社団法人日本PMO協会による認定資格です。
E-ラーニングで学習やオンラインでの受験も可能なため、比較的取得しやすい資格試験です。履歴書に書くことができる資格なので、スキルのアピールに活用できます。
高まるPMのニーズに合わせた人材確保
プロジェクトの成功に欠かせないPMの成り手は非常に少なく、企業は人材確保に苦心しているのが現状です。その対策として、アウトソーシングの活用を視野に入れる企業も増えてきました。
自社で採用するのが良いか、アウトソーシングをするのが良いかメリット・デメリットを比べてみましょう。
自社採用のメリット
社内でPMとしての経験を積むことで、自社の実情に合った的確な対応が期待でき、社内にPM業務のノウハウを蓄積できるようになります。また、スキルアップの機会を与えることで、社員の会社に対する帰属意識の向上も期待でき、裁量の多い会社の重要な業務を一任できるようになるでしょう。
将来会社の業務を担う中核としての働きを期待できることは、大きなメリットとなります。
自社採用のデメリット
PMの仕事は、知識や実技はもちろん、人格も求められることから育成が難しいとされています。その理由として、育成する側にも相応の知識が必要になる上に、習得する側の上達にも個人差があることが、更に育成を難しくする原因の1つと考えられます。育成に時間がかかれば、教える側も業務に支障が生じ、結果的にコストがかかるという悪循環に陥るのです。
また、PMの退職による新たな人材の確保と育成にかけるコストや時間などを考慮すると、自社採用のメリットは少ないと言えるでしょう。
プロジェクトの最後に問題点と改善点を報告するのもPMの役割ですが、一人でいくつものプロジェクトを掛け持つことから、時間に追われ報告書の作成ができず、結果的にプロジェクトのノウハウが属人化するというデメリットがあります。
外注活用のメリット
アウトソーシングを利用すると、さまざまなメリットが得られます。
社員の給与や派遣に比べれば、アウトソーシングは人件費を抑えることができるでしょう。
業務委託範囲はプロジェクトごとの契約も可能です。人材を確実に確保できるため、人材不足による機会損失を回避することができます。
アウトソーシング先には、専門的な知識と経験豊富な人材が揃っているため、自社の社員の育成にかかる時間とコストを抑えられ、高いクオリティの成果を期待できるでしょう。
また、高いスキルと豊富な経験をもつ優秀な人材と仕事をすることにより、社員への良い影響を与えると言えます。
納期の遅延もなく、必要な報告書もタイムリーに提出されるため、プロジェクトチームでノウハウの蓄積や共有も可能となります。
外注活用のデリット
アウトソーシングでは、デメリットも考慮に入れる必要があります。アウトソーシング先によって専門性に違いがあるため、慎重な業務委託先の選定が必要です。
そしてアウトソーシングでは、緊急時の対応が遅れる場合があるということも理解しておくことが必要です。
また、情報漏洩やデータ紛失といったリスクがあるため、万全なセキュリティ体制が整っているか確認し、損害賠償項目を含む秘密保持契約の締結を前提とした業者を選ぶなどの対策が重要となるでしょう。
まとめ
プロジェクトの総監督であるPMの需要はますます増える傾向にあり、高いPMコンピテンシーを兼ね備えた人材の確保と育成は企業にとっては深刻な問題です。社内の人材育成に時間とコストをかけるよりも、アウトソーシングを選択することで、クオリティの高い成果と取引先からの信頼を獲得することが容易といえます。
優秀なPMをアウトソーシングすることにより、自社の社員へ与える良い刺激は、デメリットを上回るベネフィットとなるでしょう。
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