
特別対談
~社会変革への展望~
本シリーズ最終回となる今回は、これまで議論してきたMACの働き方改革が目指す壮大なビジョンに迫ります。人口減少社会、AI時代、そして働き方の根本的変化が求められる中で、「組織型テレワーク」は社会のデファクトスタンダードになり得るのか?働くことの本質的価値とは何なのか?
働くことの本質を問い直す
松井氏:この対談シリーズを通じて、MACの取り組みが単なるBPOサービスを超えた社会変革の実験であることがよく理解できました。最終回として、田中さんが目指す「働くことの本質的価値」について教えてください。
田中氏:ありがとうございます。今日いろいろ話ができて、この対談は第1弾でしかないと思ってるんですよ。すごくいろんな論点ができたし、松井さんのおかげでロジックだとか法改正のところとの論点が整理できました。
重要なのは、働くことの本質が何かということです。もちろん僕も遊ぶお金いっぱい欲しいし、若い時なんかも、とにかく遊ぶお金が欲しいから仕事をしてたんで、お金はすごい大切です。だけどお金だけじゃない何かっていうのは絶対にあるじゃないですか。要は、仕事は楽しいからね。
松井氏:仕事の内発的動機の重要性ですね。これは現代の働き方改革でも注目されているポイントです。
田中氏:そうなんです。なんか、生産性を上げますよとか、どうのこうのとかっていう、その前に「なんで働くんだっけ?」っていう。そこの土台があって、文化があって、みんなで集まる文化があって、みんなで一緒になって仕事をする。
クライアントが喜ぶし、自分も成長できてるし、感謝されるし、結構ちゃんとお金がもらえるっていうね。そこのところが、本当に生産性を上げればいいじゃん、みたいなことだけが議論になっちゃってる。
AIとの協働における人間の役割
松井氏:AI時代において、人間の働く意味はどう変化すると思われますか?
田中氏:だから、AIに取って変わられるじゃないですか、みたいな議論になる。いやいやいや、それはおかしいでしょって。AIに取って変わられる部分はあるかもしれないが、すべてが取って変わられるわけはないし、AIはやっぱり、あくまでもパートナーでしょ。
AIというよりも、AIを使って、AIはパートナーとして仕事を楽しむという、仕事の楽しみ方。プロジェクトを立ち上げて、売り上げ目標でもいいじゃないですか、もしくはモーターエンジンの開発もいいし、うちみたいな地味な事務作業でも、やっぱりゴールセッティングしてそこに向かうのが楽しいから、パートナーとしてAIを迎え入れる。
松井氏:AIを脅威ではなく、協働相手として捉えるということですね。
田中氏:そうです。仕事をすること自体は変わらない。ビジョンの実現が仕事ですから。そのビジョンの実現に対して、たまたまAIというツールがあるだけじゃん。AIに取って変わられる前は若い人たちに取られちゃうとか、外国人に取られちゃうとか。その議論自体がナンセンスでね。
人口減少社会における新しい人材活用
松井氏:日本の人口減少社会において、MACのモデルはどのような社会的意義を持つとお考えですか?
田中氏:私たちは「社会の未活用人材の活用」を進めています。子育てや介護などで従来の働き方ができない優秀な人材が、実は社会にはたくさんいます。これらの人材を適切に活用できれば、人口減少下でも生産性を維持・向上させることが可能です。
多様な働き方の中で、多様な人材がいるから、普通であれば経理だとか給与計算だけになっていくものが、テックのITママさんが自由な環境で勝手にITツールを整えちゃうくらいのこともできるんです。
松井氏:それは経済学でいう「労働参加率の向上」と「労働生産性の向上」を同時に実現する優れたアプローチですね。
田中氏:そうです。人口減少社会の中で人がいなくなったり、業務が複雑になっていくところでも、私たちに頼んでいただければ、どんな業務に対しても応えられる。これが重要なのは、一時的な労働力確保ではなく、持続可能な仕組みであることです。
働き方のカテゴリー化への挑戦
松井氏:今後、MACの働き方モデルを社会に広めていくために、どのような戦略をお考えですか?
田中氏:実は、この働き方のカテゴリーをネーミングしたいんです。これは、MACのネーミングではなく、社会的なネーミングです。例えば、「朝活」とか「働き方改革」とか「スポットワーク」みたいなイメージです。
「タイミー」「メルカリ」はスキマ時間の仕事、スポットワークですが、「ママさんのオンライン細切れ労働」「オンラインスポットワーク」では弱い感じで。オンラインでできる、組織化テレワーク、スポットワーク…何かネーミングはないかと考えています。
松井氏:新しい働き方の概念を社会に定着させるということですね。それは非常に重要な取り組みだと思います。
組織変革プラットフォームとしてのCOSMOS
松井氏:COSMOSシステムの将来的な展開についてはいかがでしょうか?
田中氏:私たちMamasan&Companyは、単なるBPO会社ではなく、多様な働き方を前提とした現場に根ざした業務改革のパートナーとして、皆様の組織変革をお手伝いしたいと考えています。
COSMOSの導入度が企業の先進性を測る指標となることを目指しています。従来型のBPOサービスの枠を超えて、組織変革コンサルティングへと事業領域を拡大し、より多くの企業の変革をサポートしていきます。
松井氏:それは素晴らしいビジョンですね。人的資本経営においても、そのような実践的なプラットフォームは非常に価値があります。
客観的価値の創造と発信
田中氏:今回の松井さんとの対談で気づきがいっぱいあったから、ちょっと再構築していくということですね。働き方の問題の中で、必要性があるのはわかるんだけど、これってどういうふうに構築するか難しいなっていうふうに言われることの集合体みたいな感じなんですね。
主観的な話は本とかブログでこっちは勝手に発信すればいいわけじゃないですか。それとは別に、松井さんがママさん&カンパニーを客観的に見てくれて、どういうふうに言語化して「客観的にこう見られてるよね」ということで、外から評価をしてもらうっていう話が重要だと思っています。
松井氏:確かに、実践者の主観的な発信と、研究者による客観的な分析の両方が必要ですね。それによって、より説得力のある価値提案ができると思います。
法改正を先取りする組織設計
松井氏:2025年の育児介護休業法改正、さらに将来的な労働基準法の大幅見直しを見据えて、企業はどのような準備をすべきでしょうか?
田中氏:企業の皆様には、こうした変化を「コスト要因」ではなく「競争優位の源泉」として捉えていただきたいと思います。
育児介護、副業兼業、様々な制約がある中でも最大限の成果を出す組織作り。これは単なる制度対応ではなく、未来の働き方の先取りです。制約がある働き方を前提とした組織設計こそが、これからの時代の差別化要因になるはずです。
松井氏:まさに人的資本経営の第二段階で求められる視点ですね。開示から価値創造への転換において、MACの実践知は非常に重要な示唆を与えています。
ブルシット・ジョブの撲滅
松井氏:現代社会における「意味のない仕事」の問題についてはどうお考えですか?
田中氏:私たちは「バリュアブル・ジョブ®」という概念で、本当に価値のある仕事に集中できる環境を提供しています。ママさんたちは時間的制約があるからこそ、本質的でない作業を自然と排除する能力に長けているんです。
そして私たちは、この「本質を見抜く力」を組織全体に波及させることで、クライアント企業の業務改革も実現しています。現在のコストの80%程度に削減できるのも、こうした本質的な改善があるからです。
松井氏:制約が本質を見抜く力を高めるという理論は、行動経済学でも実証されていますね。時間やリソースが限られている時の方が、より良い意思決定をするという研究結果もあります。
次世代資本主義への提言
松井氏:最後に、MACの取り組みが目指す「次世代の資本主義」について、具体的なビジョンをお聞かせください。
田中氏:私たちは「働くことを通じて、世界に元気を送り続ける」というパーパスを掲げています。単なる利益追求ではなく、働く人々の本質的なモチベーションを起点とした、新しい資本主義社会の構築を目指しています。
4,000を超えるIDの管理や、業務プロセスの可視化は、私たちの目的を達成するための手段に過ぎません。本当に大切なのは、純粋なモチベーションで動く人々をチームに受け入れ、その力を最大限に引き出していくこと。そして、そのような組織づくりのノウハウを社会全体に広めていくことです。
松井氏:それは素晴らしいビジョンですね。ESG投資の観点からも、人的資本への投資と働き方改革は重要な評価指標となっています。
田中氏:新しい時代の働き方は、もはや「あったらいいもの」ではなく、社会の持続可能性を支える必須の要素となっています。MACは、この新しい働き方のデファクトスタンダードを築き、より多くの人々が生き生きと働ける社会の実現を目指していきます。
継続的な対話と実践
松井氏:変化の激しい時代だからこそ、田中さんのような実践者と我々研究者が連携し、理論と実践を融合させた新しいモデルを創造していく必要がありますね。
田中氏:まさにそうです。今日の対談は第1弾で、これからも継続的に議論を深めていきたいと思います。そして、私たちの実践知を活用していただき、人的資本経営の第二段階において、真の企業価値向上を実現するお手伝いをさせていただければと思います。
松井氏:ぜひ今後も連携させていただければと思います。MACの取り組みは、単なるBPO事業を超えて、働き方の根本的な変革を目指す社会実験として、非常に価値があります。より多くの人々が生き生きと働ける社会の実現に向けて、共に歩んでいきましょう。
【対談シリーズ総括】変革への7つの要諦
- 人的資本経営の本質理解:開示から価値創造への転換
- 制約をイノベーションの源泉に:困った状況から生まれる必然的解決策
- ヴェスパ・マンダリニア哲学:個体と組織の強さの両立
- COSMOS自律コミュニティ:当事者主導による継続的成長
- 専門性を超えた柔軟性:変化対応力としての汎用性
- AIとの協働関係:パートナーとしての技術活用
- 働くことの本質回帰:「バリュアブル・ジョブ®」への集中
6回にわたる対談シリーズをお読みいただき、ありがとうございました。働き方の未来について、皆様のご意見やご感想をぜひコメント欄でお聞かせください。
【シリーズ記事】
【お問い合わせ】
この対談シリーズは、働き方改革の実践的課題解決策を、理論と実践の両面から探ることを目的として実施されました。今後も継続的に、新しい働き方のデファクトスタンダード構築に向けた議論を展開してまいります。
【対談者プロフィール】
Mamasan&Company 株式会社田中 茂樹 (たなか しげき) 代表取締役 | 企業の経理・情報システム部門を経て、在宅ワークチームの運営モデルを創出。その経験をもとにMamasan&Companyを創業。4000ID規模のリモート運営において業務プロセスの可視化・再構築を実現し、組織の生産性向上と人的資本経営の実践に豊富な知見を持つ。 |
| 人的資本やイノベーション政策を横断的に研究し、政策・学術・実務をつなぐ専門家。多数の企業や自治体において、理論を実務に落とし込む支援や講演を実施し、組織運営・人的資本経営に関する深い知見と実践的アプローチを提供。 | 雇用系シンクタンク iU組織研究機構 松井 勇策 (まつい ゆうさく) 代表理事 ・社労務士 |





