新しい時代の働き方コラム

【対談シリーズ第5回】専門性にこだわらない働き方

2025年11月26日 09:00 カテゴリー : 新しい時代の働き方コラム セミナー・対談

特別対談

~変化に対応する柔軟性の獲得~

前回はCOSMOSコミュニティの力について伺いました。今回は、そのコミュニティを支える重要な文化である「専門性にこだわらない働き方」に焦点を当てます。AI時代、DX時代において、なぜ専門特化ではなく柔軟性が競争優位を生むのか?変化に対応する新しいキャリア観を探ります。

「私は経理の人」からの脱却

松井:田中さん、MACでは「専門領域にこだわらない」という独特の文化があるとお聞きしています。これは一般的な専門性重視のトレンドとは逆行しているように見えますが、どのような考えに基づいているのでしょうか?

田中:私たちは全員に対して、「自分のキャリア、プラスアルファのことをやるように」と言っています。例えば、「私は経理経験者なので、この会社で子育てをしながら経理をやりたいです」って言った時に、「経理もありますよ」って言うんですけども、うちにはコールセンターの仕事もあるし、カスタマーサポートもあるし、給与計算の仕事もある。

うちで働くからには、経理だけっていうふうに絶対こだわりたいんだったら、うちじゃないところでやってねって言ってるんですよ。

松井:それは興味深いポリシーですね。専門性を否定しているわけではなく、視野の拡大を求めているということでしょうか?

田中:そうです。これも不連続性に対する私たちの組織としての体制づくりなんです。つまり、替えが利くということ。ママさんは子育てをしていれば何ができるかわからない。その対応を作るためには、専門領域を作っちゃいけないよね、ということがうちの文化になっています。

仕事に対する向き合い方の本質

松井:その背景には、仕事そのものに対する考え方の違いがありそうですね。

田中:まさにそうです。これは私の実体験でもあるんですが、私はスーパーマーケットに勤めていました、ブライダルの会社にも勤めていました。ブライダルの会社は創業3年のところで一緒に入って、いろいろやってたんで、そもそも現場にも行くし、たまたま経理とかシステムがちょっとだけ詳しいのが僕だったので、管理本部のマネジメントをやってました。CFOとかで。

でも、綺麗事じゃなくて、スーパーに入ったら「俺はスーパー業をやってるんだ」という意識、ブライダルに入ったら「俺はブライダル業をやってるんだ」という意識でした。自分がたまたまできる担当が経理とかシステムっていう、これが仕事に対する向き合い方だと思ってるんです。

松井:職種ではなく、会社や事業に対するコミットメントということですね。これは非常に重要な視点だと思います。

組織人の固定観念を打破する

田中:結構一般的に、何の疑いもなくこうなってると思うんですよね。僕もサラリーマンの時、管理本部をマネジメントしてたんですけど、経理で採用した人が経理で育ってるわけですよ。

経理で採用した人に対して、例えば3ヶ月経って「給与計算のところ、ちょっと給与計算やってよ」って言うと、「えー」みたいな。エクセルでポチポチやって数字やってるのは一緒でしょ、と思うんですけど、嫌そうな顔をしたりするんですよ。

松井:確かに、多くの組織でそのような専門領域への固執が見られますね。

田中:世の中って本当にみんな、なんか仕事って「私はこれをやります」って、それが仕事の本質じゃないよね、って思うんです。

例えば、ケンタッキーフライドチキンで働いてたら、俺はケンタッキーをやってるんだ、という意識で、でも自分がたまたまできる担当がレジなのか、厨房なのか、っていう。これが仕事に対する向き合い方だと思ってるんです。

ママさんならではの柔軟性

松井:この柔軟性が、特にママさんたちにとって重要な理由は何でしょうか?

田中:ママさんは子育てしていれば何ができるかわからない。その対応を作るためには専門領域を作っちゃいけない。これがままさんの文化になってます。

そもそも子育て中の方々は、日常的に予期しない状況への対応を迫られています。子どもが急に熱を出したり、学校行事があったり。そういう不連続性の中で生活している人たちだからこそ、仕事でも柔軟性を発揮できるんです。

松井:制約があるからこそ柔軟性が身につく、という前回までのお話とも繋がりますね。

田中:そうです。そして、この柔軟性こそが、これからの時代に最も重要な能力だと思っています。

AI時代のキャリア不安への解答

松井:AI時代において、多くの人が「自分の仕事がなくなるのではないか」という不安を抱えています。田中さんはこの不安をどう捉えていますか?

田中:正直言って、自分のキャリアに不安を感じる人って、「私は経理」とか「私は給与計算」とか、何でもいいですよ、「私は営業」とか、専門領域を固定して持っちゃってる人だなと思うんです。

仕事なんて別に、仕事って価値交換じゃないですか。そこにお客さんがいて、それに対して何らかの価値を提供したい。組織に入った場合に、そこが直接的にお客さんに何を届けているか、そこのキャッシュイン、つまり売上がどう立ってるかっていうところに、どの立場で入っても立ち返らないとおかしな話になる。

松井:本質的な価値創造に焦点を当てるということですね。

田中:そうです。そこさえ抑えていれば、仕事を失う不安とか、「僕、今後キャリアどうしよう」っていう不安って生まれないと思ってるんです、もともと。

だから「AIに取られちゃう」とか言ってるのは、仕事を20年くらい勘違いしてやってんだよね、みたいな話で。仕事ってそういうことじゃないよね、みたいな。

ママジャイル®:変化対応の新しい働き方

松井:MACでは「ママジャイル®」という独自の働き方を実践されているとお聞きしています。

田中:はい。アジャイルに関しては、おそらくシステム開発の現場での開発思想の概念だと思うんですけども、私たちは偶然なんですけども、「ママジャイル®」と名付けています。

まさしく一般的にあるアジャイル、変化に対して対応し続けるという、それがまさしくうちの仕事のやり方で、そこプラス、それを改善するメンバーのロケーションが、今日お話ししたような形なので。

松井:アジャイル開発の思想を、ママさんたちの働き方に適用したということですね。

田中:そうです。アジャイルの精神に則って、ママさんの働き方に合った仕事のプロジェクトの回し方、フレームというのが定義されています。不連続な経営への対応が必要な場合が多いんですね。

不連続な経営と組織設計

松井:「不連続な経営」という表現が興味深いですね。詳しく教えていただけますか?

田中:私たちの組織は、そもそも皆不安定ですよね。不安定を前提にフローチャートとマニュアルで標準化して、これで生まれたのが、昨日今日から働き始めている新人1時間目のママさんも、まあスピードは遅かったとしても作業ができるんです。

でも、これが何で重要かというと、逆に言うと、急に働けなくなってしまった時に、チェンジが効くんですよ。つまり、連続的に同じ担当がやってくる前提ではない。

松井:個人の不安定性を組織の安定性で補完するシステムですね。

田中:まさにそうです。そして、この考え方は今後多くの企業にとって重要になると思います。働き方の多様化、人材の流動化が進む中で、特定の個人に依存しない組織設計が不可欠です。

価値創造への集中

松井:専門領域にこだわらないことで、どのような効果が生まれていますか?

田中:COSMOSのメンバーには何でもいろんなことをやろうね、って言っています。特にリーダー業務で業務構築に関しては、最初から全員に挑戦させるんです。

なぜかというと、業務プロセスを可視化して標準化してマニュアルを作るっていうのは、私たちが抱えている不便さを解決するための道具なんですね。それを当事者がみんなで作るということは、解決した先のマニュアル・フローチャートを見て粛々とやっている仕事だけでは面白くないけれど、付加価値を作っているし、「これを私が作ったから、私の案件でママさんたちがみんな仕事できるんだ」という立ち位置で、自分の成果を感じられる。

松井:自己効力感と組織貢献の両方を満たす仕組みですね。

田中:そうです。他者評価もあって、自分の成長感もあるというところをモチベーションの基点にして、今の自分の仕事や領域に変にこだわるということはしない。これが変化の激しい時代には重要だと思います。

多様な人材によるイノベーション

松井:専門領域を超えた働き方が、イノベーションにどう貢献していますか?

田中:多様な働き方の中で、多様な人材がいるから、普通であれば経理だとか給与計算だけになっていくものが、テックのITママさんが自由な環境で勝手にITツールを整えちゃうくらいのこともできるんです。

なので、人口減少社会の中で人がいなくなったり、業務が複雑になっていくところでも、私たちに頼んでいただければ、どんな業務に対しても応えられる。

松井:これは非常に重要な競争優位ですね。一つの組織で幅広い専門性をカバーできるということですね。

田中:はい。そして重要なのは、この多様性が「専門性の寄せ集め」ではなく、「柔軟な価値創造チーム」として機能していることです。

変化の時代の新しいキャリア観

松井:今後、働く個人はどのようなキャリア観を持つべきだとお考えですか?

田中:重要なのは、「何ができるか」よりも「どう価値を提供するか」という発想です。私はラーメン屋で働いて、でもたまたまマーケティングをやっていることの役割ですよ、っていう感覚です。

この感覚がないと、なかなか僕自身がその感覚なので、入ったメンバーに対して真っ向から言えるんですよ。「いよいよ経理しかやらないとか、ふざけるなよ」っていうね(笑)。

松井:非常に率直ですね(笑)。でも、その根底には深い洞察があると思います。

田中:はい。お客さんが困っていたらお客さんのところに駆けつける、これが普通のことでしょって。それが仕事の本質だと思っています。

企業へのメッセージ:柔軟性が競争優位を生む

松井:最後に、多くの企業がまだ専門性重視の人事制度を取っている中で、どのようなアドバイスがありますか?

田中:変化の激しい時代だからこそ、専門領域に固執することのリスクを認識すべきです。むしろ、変化を「コスト要因」ではなく「競争優位の源泉」として捉えていただきたいと思います。

制約がある働き方を前提とした組織設計、多様な人材が柔軟に協働できる仕組み、これらが今後の企業の差別化要因になるはずです。

松井:変化に対応する柔軟性こそが、持続的な競争優位を生むということですね。本日も非常に示唆に富むお話をありがとうございました。

まとめ:専門性を超える4つの原則

  1. 価値創造への集中:「何ができるか」より「どう価値を提供するか」
  2. 不連続性への対応:個人の不安定性を組織の安定性で補完
  3. 柔軟なチーム編成:多様な専門性を横断する協働体制
  4. 変化をチャンスに:制約や変化を競争優位の源泉として活用

次回予告:【第6回】次世代働き方のデファクトスタンダードへ ~社会変革への展望~


専門性とジェネラリストのバランスについて、皆様はどうお考えですか?最終回となる次回は、MACの取り組みが目指す社会変革の全体像をお聞きします。

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