情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間にとらわれることなく柔軟な働き方を意味する「テレワーク」という言葉があります。
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催にあたり、政府をはじめ関係団体によってテレワークの導入が広く推奨されています。
先のロンドンオリンピックでは、テレワークの導入によって運営に大きな混乱を避けられたという成果もあります。
もちろん、オリンピックのためだけでなく導入した企業にとってもメリットがあるからこそ、多くの企業が賛同し実施しました。しかし、いざ自社で導入しようとしても、一体どのように進めていけばよいのかわからず立ち止まっている方も少なくありません。オリンピックとテレワークの関係性や、導入することで得られる助成金等のメリットについてご紹介いたします。
ロンドンの企業8割が実施したテレワーク
2012年に開催されたロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会では、ロンドン商工会議所をはじめとする約8割の企業および団体がテレワークを導入しました。オリンピック開催期間中は交通量が増え、混雑により地域住民の通勤に支障が出るとの予測から、市交通局がテレワーク等の活用を呼びかけたのです。
ロンドンは一年を通して観光客の多い都市であり、オリンピック開催以前から交通網の土台が確立されていました。さらに、既存の交通網を最大限に活用すべく講じられた対策の一つであるテレワークの活用に、一定の効果が認められたと報告されています。
オリンピック開催の混雑
ロンドンオリンピックの競技チケットには、公共交通機関の1日フリーきっぷが付いており、多くの人が公共交通機関を利用しました。
例えば、ロンドン地下鉄では、通常時の135%という利用実績が残っています。利用者が増えたにも関わらず、時刻表に掲示された中で実際に運行された指標となる「信頼度」は98%と高い水準を打ち出しました。これは、大きなトラブルを回避したことを意味します。
【出典】ロンドン・オリンピックにおける実績と評価
https://www.itej.or.jp/assets/seika/topics/201303.pdf
東京オリンピック・パラリンピックでも交通網の混雑は必至
東京都と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、大会期間中の鉄道混雑予想や道路渋滞をまとめた「大会輸送影響度マップ」を公表しています。
マップでは、何も交通対策を行わなかった場合に、鉄道や道路等に生じる影響についてまとめられています。
鉄道においては、首都圏沿線の利用者へ広範囲にわたって影響が出ると予想されており、首都高全域では、通常の3倍以上の時間がかかるとも算出されています。
交通混雑は、首都圏の通勤だけでなく物流にも大きな影響を与え、首都圏の混乱によって地方企業の業務にも影響が及ぶことが考えられます。
【参考】「大会輸送影響度マップ」
https://2020tdm.tokyo/map/
テレワークは混雑回避の切り札
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の混雑予想から、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府は、東京都や関係団体と連携し、混雑回避の切り札としてテレワークの活用を推奨しています。
2017年からは、東京オリンピックの開会式が行われる7月24日を「テレワーク・デイ」と設定し、2020年まで毎年、企業等によって全国一斉にテレワークの実施を展開しています。
「テレワーク・デイズ」
2017年には、7月24日の1日だけだった「テレワーク・デイ」は、2018年には5日間のうち7/24と1日以上の実施を呼びかけ「テレワーク・デイズ」としました。
さらに2019年のテレワーク・デイズでは、7/22~9/6までの間で5日以上の実施を呼びかけて、2887団体、約68万人が参加しました。
テレワークという働き方の定着を目指して
オリンピックにおいては、オリンピックで活用された様々な資源を終了後にどのように利用するかという「レガシー」が重要です。
「テレワーク・デイズ」では企業等がテレワークを導入する機会を創出し、全国的に「テレワーク」という働き方が広く定着することを期待しています。
つまり、東京オリンピック・パラリンピック競技大会をきっかけに日本社会に働き方改革を定着させることをレガシーとしています。
2019年現在でのテレワーク導入率
総務省の「平成29年通信利用動向調査」によると、日本の企業におけるテレワークの導入率は13.9%、導入予定も含めると18.2%です。
また、テレワーク導入企業のうち在宅勤務の導入率は29.9%、モバイルワークの導入率は56.4%、サテライトオフィスの導入率は12.1%です。
さらに、2018年に総務省によって公表された「テレワークの最新動向と総務省の政策展開 ~ 「テレワーク・デイズ」を通じた働き方改革 ~」内にある2012年からの調査結果を見ると、テレワーク導入企業はゆるやかな増加傾向にあると言えます。しかし導入状況を国際的に比較すると、「米国85.0%」「英国38.2%」「ドイツ21.9%」と、日本での導入にあたり課題の存在は大きいです。
テレワークを導入しない理由と対策例、導入のメリットについて詳しく見ていきましょう。
テレワーク導入を妨げている理由
導入を検討したとき、「テレワークに適した仕事がない」と思われる場合も少なくありません。しかし、試行導入で、まず体験してみることが有効であり、本格導入には業務改革が欠かせません。
「社内コミュニケーションに不安がある」ケースについては、企業風土の改革、コミュニケーションツール(社内SNSを設ける等)活用が必要です。
また、「顧客等、外部対応に支障をきたす」という社内だけでは解決することが困難な理由もあるのは確かであり、社会全体での文化や価値観の転換が重要です。
つまり、テレワーク・デイ(ズ)の実施等、政府や関係団体が2015年から動いているため、2020年の東京オリンピックを機に導入しやすい環境への過渡期と言えます。
テレワーク導入がもたらす企業と個人へのメリット
「テレワーク・デイ(ズ)」や東京都が呼びかけている「時差ビズ」に参加し実際にテレワークを導入した企業や団体は、「コミュニケーションの活発化」「仕事の見える化」「生産性の向上」等の効果を実感しています。テレワークでは、共に仕事を進めていく者同士のコミュニケーションが重要となります。コミュニケーションを取る機会が増え、互いに情報共有が活発になったという事例も報告されています。
成果物や始業・終業時報告等を関わるメンバー全体で共有することで「仕事の見える化」を図ることができ、業務改善につながります。
業務が可視化されることによって、より計画に沿って効率的に仕事を進めることができ「タイムマネジメント」の向上と従事者一人ひとりの意識改革にもなるのです。
また、テレワーク・デイズのコア日である7月24日の統計では、ペーパーレスが進み事務用紙等の使用量が普段の約38%減少、旅費・交通費は約10%減少したためコスト削減にも効果が見られました。さらに、残業時間にも変化があり、同じく7月24日の統計では普段の約45%も減少しています。
個人としても、ワークライフバランスの向上や自律・自己管理的な働き方の実現、そして職場との連携強化等、仕事全体の満足度向上と労働意欲の向上が期待できます。
テレワークの導入は労働生産性アップにも影響
「生産性」とは、投入資源(インプット)と産出(アウトプット)の比率を意味します。投入した資源に対して産出の割合が大きいほど、生産性が高いといえます。
内閣府が打ち出した「働き方改革」において、労働生産性の向上は急務とされています。
テレワークを導入している企業の労働生産性は、導入していない企業に比べて1.6倍にも及ぶという調査結果も総務省から公表されています。
導入に関する助成や援助
東京都を中心に日本全体でテレワーク導入の機運が高まっている中、厚生労働省や地方自治体が導入に使える助成金や補助金を交付しています。具体的にいくつか紹介します。
時間外労働等改善助成金(テレワークコース):厚生労働省
「労働時間等の設定の改善」および、仕事と生活の調和推進のため、在宅またはサテライトオフィスで就業するテレワークに取り組む中小企業事業主を支援するものです。
各事業場における労働時間、年次有給休暇等に関する事項について労働者の生活と健康に配慮し、多様な生き方に対応した、さらにより良くしていくためにテレワークを導入した全国の中小企業が対象です。
支給額は、支給対象となる取組の実施に要した費用のうち、「対象経費」に該当するものについて、成果目標の達成状況に応じて助成されます。
テレワーク活用・働く女性応援助成金:東京しごと財団(東京都)
常時雇用する労働者が2名以上、かつ999名以下で都内に本社または事業所を置く企業等が対象の助成金制度です。
テレワーク機器導入事業として、助成率1/2 限度額250万円となっています。
はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金):東京都
対象は、テレワーク活用・働く女性応援助成金と同様ですが、テレワークをトライアルするための環境構築費や制度整備費として、上限40~110万円の補助が交付されます。
必ず、ワークスタイル変革コンサルティングを受ける必要があります。
まとめ
ロンドンオリンピックでのテレワーク導入成功例があるように、2020年東京オリンピックでは、公共交通機関と主要道路の混雑必至のため、通常業務に支障をきたすことないよう、テレワーク導入は有効である場合が多いとわかります。
2020年東京オリンピックの直前ではなく、関係府省、東京都、関係団体、地方自治体による導入支援が充実している今だからこそ、今年度中からの早期準備が重要です。
どのように導入することが自社独自の強みを発揮できるのか、今一度、様々な業務の「見える化」に取り組むところから始め、各種支援を利用してみてはいかがでしょうか。
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