新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、接触機会を減らすことができる在宅コールセンターへの注目が集まっています。しかし、在宅コールセンターの導入・運営には、様々な課題があると言えるでしょう。
前回の記事「在宅コールセンターの運用の壁1~費用と管理~」に続き、今回はコールセンターを設計する際に検討しておかなければならない数々のポイントと、自社のコールセンターが適切に運営されているか評価するための指標について解説します。そして、生産性や品質を向上させるための様々なヒントや、在宅コールセンターの運用を助ける運営支援ツールなどについて紹介していきます。
コールセンター立ち上げのコツ
コールセンターの立ち上げにあたっては、全体的な目標設定から対応内容などの詳細まで、検討するポイントは多くあります。まず現状を調査して目標やコンセプトを設定し、それに合わせた設計・構築をしていくことが大切になります。一つひとつ詳しく見ていきましょう。
現状調査
コールセンターを新しく設置する場合も、既にあるコールセンターを見直す場合であっても、現状の課題を調査することは大切です。現状をきちんと把握しないままコールセンターを設置しても、思うような効果を得られない恐れがあるからです。
現状把握の際には、組織体制、マネジメント、教育体制、システム設備それぞれを可視化し、現状で何が不足しているのか、目的を達成するにはどうすればいいのかを洗い出していきます。また、業務プロセスのフロー図も確認しておきましょう。
コンセプト・目標の設定
コールセンターの立ち上げにあたり、最初に決めておくべきことはコンセプトや目標です。近年、コールセンターは単なる問い合わせ窓口としてだけでなく、その応対品質によって、顧客満足度や顧客ロイヤリティを大きく左右する重要な役割を担っていると言えます。
その上でコンセプトを決める際も、顧客満足度を重視するのか、生産性を最優先にさせコストを減らすことがゴールなのか明確にしておきましょう。ゴールが曖昧なまま進めると、スタッフやオペレーターが何を目的に業務に取り組めばいいのかがわからず、モチベーション低下を招く恐れもあります。
設計
コンセプトや目標が決まったら、コールセンターの全体像を設計していく作業に移ります。
組織体制、マネジメント、教育体制、システム設備、業務プロセス・フローをそれぞれ設計していきましょう。
まず、先に設定したコンセプトに従い、どのようなサービスを提供するのか、コールセンターで何を行うのかを明確にすると、必要な職務やスタッフ人数などの組織体制が見えてきます。
次に、設計・構築した体制やフローがコンセプト通りに成果を出しているか管理し、時には見直す判断を下せるように、的確なマネジメント方法を決めておくことが重要です。
また、コールセンターは離職率が高い職種なので、教育体制を設計する際は人材を育てることと並行して、長く安心して働けるサポート環境を整えておくこともポイントになります。
システム設備においては、最近ではAIやIoTの発展によりコールセンターの運営を支援する機能が次々と開発されています。業種や目的などにより取捨選択し、本当に必要なシステムを導入しましょう。
さらに、通常時の業務フローをはじめ、イレギュラーな事態への対処方法なども検討し、業務プロセスを細部まで設計していきます。
構築
設計が済んだら、それに沿って実際の構築作業にかかります。
まず、設計に基づいたシステムや機器の導入・設定をし、万全のセキュリティ対策を施しておくことが大切です。次に、設計時に策定しておいた業務プロセスにもとづき、各種マニュアルを作成します。基本マニュアルのほか、緊急時対応のマニュアルも用意しておくといいでしょう。
そして、決めたプランに基づいて人材の募集と採用、教育を行います。
コールセンター運用前に知っておくべきポイント
コールセンターでは、様々な指標が使われています。コールセンターを立ち上げる前に、これらの指標について、知識を高めておくことが重要です。当初設計した目標のとおりに成果が出せているのか、どのような問題点や改善点があるのかを知るために、それらの指標が重要になるからです。
標準となる指標でパフォーマンスを把握
コールセンターでは「顧客満足度の向上」や「応対品質の向上」といった達成の道筋が立てづらい目標を掲げているため、そうした目標を達成するためのプロセスを数値化し、具体的にするためにKPI(重要業績評価指標)という指標を使用します。数字で表現されるKPIはスタッフにとって明確な目標になるだけでなく、管理者にとってもスタッフを評価するうえでの根拠となります。
運営に重要な3つのKPIとは
コールセンター業界は特にKPIの種類が多いといえますが、コールセンター運営に重要な3つの分野「生産性」「品質」「収益性」に大きく分けることができます。
■「生産性」を表すKPI
代表的なものは「AHT(平均処理時間)」で、1通話あたりにかかった時間を表します。AHTが短縮できると、一人あたりの対応件数を増やし稼働率を高めることが可能です。AHTを短くするためには、音声認識ツールや入力補助ツールを利用してACW(平均後処理時間)を短縮させるなどの対策が考えられます。
■「品質」を表すKPI
コールセンターは繋がることが基本なので、センターにかかってくる電話に対して、どれだけ対応ができているかを「応答率」で表します。それ以外にも、決めた時間内にどれだけ電話が繋がったかを表す「SL(サービスレベル)」や、商品やサービスに対する顧客満足の度合いを表す「CS(顧客満足度)」などがあげられます。
■「収益性」をあらわすKPI
1コールにかかる費用を表す「CPC(コスト・パー・コール)」が代表的なものといえます。経営指標として最も重要視されるKPIのひとつで、経営側も注目度の高いKPIです。
PDCA を意識して実行する
PDCAサイクルは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」という4段階のプロセスで構成され、管理業務を円滑に進める手法の一つです。
コールセンターにおけるPDCAサイクルでは、「Do」で実施した効果をしっかりと検証する「Check」と「Act」のプロセスが重要です。KPIで数値化される多くの課題と常に向き合い、それぞれの課題にPDCAサイクルを継続的に実行すれば、中長期的にはセンターの大きな成長が期待できます。
運用課題③呼量削減や平準化
在宅コールセンターの運用課題として、前回の記事では費用面と労務管理について解説しましたが、業務改善も重要な課題です。
コールセンターの業務改善には、呼量削減やオペレータースキルの平準化が重要となります。近年進化を続ける様々なAIツールも活用しながら、オペレーターの品質向上と生産性向上を進めていきましょう。
営業時間の短縮を考える
入電してから切るまでを「呼量」と呼びます。これから紹介する様々な対策によって呼量を減らすことができれば、営業時間の短縮に繋がるうえ、より重要な受電に対し時間をかけて対応することも可能になります。よりスムーズに問題解決ができることで、顧客満足度の向上も期待でき、コールセンターの品質アップにも繋がるでしょう。
チャットボックスを導入して定型内容をシステム化
コールセンターのオペレーションにおけるAI活用のひとつが、AIが対応するチャットでのカスタマーサポートです。現在は多くの企業がWebサイト上にチャットでの相談窓口を設けています。有人チャネルとしてコールセンターを設置した上でチャットボックスを設置すれば、カスタマーサポート体制を強化できます。
オムニチャネル化で顧客を効率よく誘導
オムニチャネルとは、「電話」「メール」「Webフォーム」「チャット」「SNS」など複数のチャネルで情報が共有され、どのチャネルでも顧客の問題が解決できることをいいます。顧客が自由にチャネルを選べるだけでなく、コールセンター側でチャネルを選んで対応することも可能です。例えば、顧客がWebフォームから問合せても、至急性の高いものはコールセンターから電話をして早期解決を図ります。その一方で、至急性がそれほど高くない連絡にはメールやチャットを使うことで、顧客は自身の都合の良いときに確認することができ利便性が高まります。
FAQの整備
FAQシステムを整備することにより、顧客がコールセンターに問い合わせをしなくても問題を自己解決できるようになり、問い合わせ数の削減が可能です。その結果オペレーターの負担や人件費の削減が見込めます。
また、顧客にとっても、オペレーターに繋がるまで長時間待たされることなく、問題を素早く解決できることで、顧客満足度の向上が期待できます。
コールバック対応に切り替えて応対率や品質を維持
一時的に問合せが急増した場合でも、コールバック(折り返し電話)対応に切り替えることで、空き時間に順次コールバック対応ができます。その際、経験の浅いオペレーターには対応しやすい質問を、経験豊富なオペレーターには複雑な質問をというように、電話を振り分けることも可能です。顧客にとっても保留のまま待ち続ける必要がなく、顧客満足度が上がります。
現在はIVR(自動応答システム)でも、顧客の連絡先や折り返し希望時間帯などを登録してもらい、折り返し電話を約束できる機能がついたものもあります。
運用課題④コールセンターの運営支援
コール業務において、対応支援を受けにくい在宅オペレーションは応対品質の維持が課題と言われます。しかし、現在では音声認識システムやAI分析、SV(スーパーバイザー)やオペレーター同士のコミュニケーションツールなど、在宅コールセンターでも活用できる様々な運営支援ツールが開発されています。
音声認識や分析システムで業務を可視化
コールセンターでは、応対品質向上と顧客満足度向上のためにAI技術を用いた「音声分析」が活用されています。
テキスト化された通話音声を自動要約して応対履歴入力を省力化したり、通話中のキーワードからFAQを自動検索して保留時間を減らす業務効率化が見込めます。
また、オペレータがNGワードを言っていないかなどをリアルタイムにモニタリングし、問題があれば直ぐにサポートに入ることが可能です。全通話の記録を自動評価し、オペレータ指導を効果的に行ったり、VOC(お客様の声)分析によって顧客ニーズの発見や商品・サービス開発、業務改善へのヒントを得ることも可能になります。
AIによるオペレーター支援の最適化
コールセンターでは、さまざまな業務でAIが活用されています。AIを利用したコールセンターでは、AIがオペレーターの業務支援をし、業務の負荷を軽減することが可能です。
例えば業務経験の浅い社員でも、マニュアルやWebサイトの掲載情報を自動表示することで、品質の高い対応ができます。さらに、お客さまの声や購入履歴などから顧客の行動を予測するなど、AIがサポートすることで品質を向上し、顧客満足度を上げることに期待が持てるでしょう。
オペレーター管理機能やコミュニケーションツールを駆使する
オペレーターの対応状況や通話内容をリアルタイムで確認できるモニタリング機能を使用すれば、SVなどの管理者から目の届かないオペレーターの稼働状況も確認することができ、クレーム対応時やお客様との対応時間が長くかかってしまっているといった場合でも、フォローに入ることができます。その結果電話応対品質の向上だけでなく、オペレーターのストレス軽減も期待できるでしょう。
また、オペレーター同士でのコミュニケーションがスムーズにできる機能があれば、困ったことをすぐに質問でき安心です。
コールセンター代行でコストカット
今まで説明してきたように、コールセンターを立ち上げるには多くの手順があり、管理していくべきポイントがあります。また、業務改善のための指標やツール、運営支援システムなど、多くの知識が必要です。
しかし、コールセンター代行に運営を委託すれば、人手不足や営業時間などの課題解決はもちろん、品質の高いプロのオペレーター集団によるコールセンターの運用を、今すぐ始めることが可能になります。また、分析や業務改善についても相談していくことができます。
そして、委託することにより、オペレーターの採用・教育や必要なインフラ準備のためのコストや時間を削減することも可能になるでしょう。
これから在宅コールセンター導入を考えている企業も、まず代行会社への委託を検討するのも一つの方法です。
まとめ
株式会社矢野経済研究所の調査によると、新型コロナウイルス感染防止の対策としてだけでなく、BCPの観点や不足する労働力を補う意味においてもコールセンターにおける在宅勤務の導入が進んでいます。また、コールセンターにおけるマルチチャネル化が進むなど業務の幅が広がっているため、コールセンター業務をアウトソーシングする流れが今後も強まっていくと言えるでしょう。
在宅のコールセンター導入はメリットも大きいですが、適切に構築・運営していくには分析方法や最新のシステムなど様々な知識が必要になります。アウトソーシングの活用も視野にいれながら、在宅コールセンターを上手に運用していきましょう。
【参考】コールセンターサービス市場コンタクトセンターソリューション市場の調査を実施(2020年) ニュース・トピックス _ 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
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