
特別対談
~自律的成長を支える非公式組織~
前回は「ヴェスパ・マンダリニア」という組織哲学について伺いました。個体の強さを持つ人材が集まっても、それだけでは組織は機能しません。今回は、その強い個人たちを繋ぎ、継続的な成長を支える「COSMOSコミュニティ」の秘密に迫ります。リモートワーク環境で「給湯室」の機能をどう再現するのか?
仕事の醍醐味を支える「関係性」
松井氏:田中さん、前回の「ヴェスパ・マンダリニア」で個体の強さの重要性はよく理解できました。ただ、強い個人をどう繋げていくかという点で、COSMOSコミュニティが重要な役割を果たしているとお聞きしています。
田中氏:そうですね。実は私、研修なんかでもよく言うんですが、本当はオフィスに集まって仕事をしたいんですよ。なぜかというと、やっぱり集まったら、なんかこいつちょっと嫌いだな、好きだな、イケメンだな、ブサイクだな、色々出てくる中で(笑)、でもやっぱりこいつと一緒にチームをやったら、なんか性格的には合わないけどすげー頼りになる、とか。
やっぱりこいつ好きだなぁ、9割がた嫌いだけど1割好きだから一緒に仕事できる、とか。そういう関係性ができるじゃないですか。
松井氏:人間関係の複雑さが、逆に組織の強さを生むということですね。
田中氏:まさにそうです。なんでそういう関係性ができるかというと、飯を食ったりとか、仕事中でも余計な話、雑談をするじゃないですか。好きな酒の話とか、好きな異性の話とか、あと上司の愚痴を言ったりとか(笑)。こういう時間で組織を作ってるんですよ。
ところが、私たちの点々バラバラのテレワークだと、これがないんですよね。
リモートワークの二大問題
松井氏:リモートワークの課題として、どのような問題を感じられましたか?
田中氏:創業の時から、可視化の問題と同じく、二大問題だったんです。コミュニケーション、仲間意識って作れないじゃん、こんなんじゃ話にならないぞ、みたいな。
だって仕事の醍醐味がそこにあるから。それができないのに、仕事なんかしたって意味ないだろ、ぐらいのことは言ってるんですよ。
松井氏:仕事の本質的な価値が、人間関係や感情的な繋がりにあるということですね。
田中氏:そうなんです。楽しいっていうか、なんか仕事をして、仕事は楽しいからね。お金だけじゃない何かっていうのは絶対にあるじゃないですか。仕事をして、クライアントが喜ぶし、自分も成長できてるし、感謝されるし、そしてちゃんとお金がもらえる。
そこのところが、「生産性を上げればいいじゃん」みたいなことだけが議論になっちゃってる。だから、AIに取って変わられるじゃないですか、みたいな議論になる。
COSMOSという解決策
松井氏:その課題をどのように解決されたのでしょうか?
田中氏:オフィスに集まる方の情報量でお互いのことを知ることは、残念ながら完全にはできないと分かっているけど、その重要性っていうのを噛み締めながら、私たちはDiscordというチャットツールを使って、そういう仲間作りをすごく重要視しています。
それこそが仕事の醍醐味であり、その土台があるからこそ、いざという時にチームとして一緒に信頼関係を持ってやれるんだよね、ということを感じ続けられるためのものです。
松井氏:つまり、デジタルツールを使って「給湯室」の機能を再現しているということですね。
田中氏:まさにその通りです。本当はタバコを吸う部屋があったりとか、みんなで飲みに行ったりとかっていうことがベストなんです。オフ会なんかもやったりするんですけどね。
でも、リアルで集まることは業務遂行の常識論だったけど、今まさにリモート前提だからこそ、そのあたりの機能を切り分けて、鋭い形で実現する必要があるんです。
当事者主導のコミュニティ運営
松井氏:COSMOSの運営体制について教えてください。
田中氏:非常に重要なのは、僕らがその当事者本人、つまり業務委託のママさんたちが、当事者同士でそれを提供し合う仕組みだと思ってることです。
各企業さんが人事戦略室などで企画して、組織に提供するっていうところとは違って、私たちは当事者の方たち、しかも業務委託でいる人たちが、自らそれを作り出している。ちょっと大げさですけど、原子炉じゃないですけど、自らがエンジンとなって活動しているんですよ。
松井氏:それは非常に興味深いアプローチですね。トップダウンではなく、ボトムアップの自律的なコミュニティということですね。
田中氏:はい。もちろん方向性として、私も代表取締役としての自覚はありますが、むしろ私は「群れのリーダー」だと思っています。群れのリーダーとして、アイディアを出したりはしてるんですけども、COSMOSというコミュニティに対しては、基本的に私は不在なんですよね。
最初のきっかけを出しただけで、そのきっかけは何かというと、「自らが自分たちで問題を解決する力がないとダメだよね」ということです。
COSMOSの5つの要素
松井氏:COSMOSという名前の由来について教えていただけますか?
田中氏:COSMOSは以下の5つの要素から成り立っています:
- Communication:単なる情報共有ではなく、「自ら発信し、対話を生む」
- Organization:組織の中で「自らの役割を見出し、貢献する」
- Social:受動的ではない「主体的な関係構築」
- Mindset:「自己認識」と「他者理解」に基づく思考
- Objective:目的を「与えられるもの」ではなく「自ら見出すもの」として捉える
- そして、これらを統合するSystemがCOSMOSなのです。
松井氏:非常に体系的ですね。これらの要素が相互に作用して、コミュニティの力を生み出しているということですね。
原子炉的な自律性
田中氏:まだ完成したとは思ってなくて、非常に日々問題も起きるんですが、その原子炉的な動きっていうのが非常に重要だと思っています。これがなくなって原子炉が止まった瞬間に、うちはビジネスを全部撤退しなきゃいけないと思ってるくらいです。
松井氏:それだけ重要な機能を果たしているということですね。具体的には、どのような活動が行われているのでしょうか?
田中氏:COSMOSは成長するためのトレーニング場所であり、連帯するための場所であり、貢献するための場所なんです。
ここでナレッジの共有や、いろんなコミュニケーションがあるんですけど、そういうコンテンツの開発自体も、まさにCOSMOSカルチャーの中でママさんたちがやっています。
松井氏:つまり、学習する組織(ラーニング・オーガニゼーション)の実践例とも言えますね。
強制でない部分の重要性
松井氏:COSMOSの継続性を支えている要因は何でしょうか?
田中氏:重要なのは、強制でない部分です。常にゆらゆら揺らいでいるというか、土台がしっかりしているというのもなんかアンバランスの中に存在している感じなんですよね。
でも、それでも崩壊せずにいるっていうことの背景には、先ほどお話しした「うちはうち、よそはよそ」という文化があります。
松井氏:自由意志による参加だからこそ、本当に価値を感じている人たちが残り、コミュニティの質が保たれるということですね。
田中氏:そうです。そして、仮にコミュニティの文化に合わなければ、無理に引き止める必要はない。それが仮に業務で能力があったとしても、嫌なメンバーと仕事をする必要はないと考えています。
リモート環境での人材育成
松井氏:COSMOSは人材育成の面でも機能しているのでしょうか?
田中氏:はい。子育て中の人たちが同じような背景を抱えているもの同士として、コミュニティを作って、ナレッジの共有やスキルアップを自発的に行っています。
例えば、業務構築に関しては、最初から全員に挑戦させるんです。業務プロセスを可視化して標準化してマニュアルを作るというのは、私たちが抱えている不便さを解決するための道具ですから、それを当事者がみんなで作る。
松井氏:自己効力感と組織への貢献感を同時に育む仕組みですね。
田中氏:まさにそうです。「これを私が作ったから、私の案件でママさんたちがみんな仕事できるんだ」という立ち位置で、自分の成果を感じられる。他者評価もあって、自分の成長感もあるというところをモチベーションの基点にしています。
AIとの協働における人間性の価値
松井氏:AI時代において、COSMOSのような人間的なコミュニティの価値はどう変化すると思われますか?
田中氏:AIはあくまでもパートナーとして仕事を楽しむための道具です。仕事の楽しみ方、プロジェクトを立ち上げて、売り上げ目標でもいいし、うちみたいな地味な事務作業でも、やっぱりゴールセッティングしてそこに向かうのが楽しいから、パートナーとしてAIを迎え入れる。
仕事をすること自体は変わらない。ビジョンの実現が仕事ですから。そのビジョンの実現に対して、たまたまAIというツールがあるだけです。
松井氏:人間同士の繋がりや感情的な交流は、AIに代替できない本質的な価値だということですね。
田中氏:そうです。仕事の本質は、感動があり、仲間がいるからです。うまくいかなかった時に悔しがる、うまくいった時に一緒に喜ぶ。こういうものが仕事の醍醐味で、これを感じるには誰かと一緒でないと感じられない。
非公式組織の戦略的価値
松井氏:企業にとって、COSMOSのような非公式組織の価値をどう評価されますか?
田中氏:非公式組織の有効性は、今働き方が多様化する中で、ものすごく重要になっていると思います。企業の中でも、社外の人との交流、副業・兼業での刺激、こういうことが注目されています。
特に両立を支援するという面でも、キャリアの持続性や、よりエンゲージメントを高めるという面でも、すごく重要です。そして、それが自律的にできるものなんだということ自体が、世の中に与えるインパクトは大きいと思います。
松井氏:組織の境界を超えた学習と成長の場として、新しい人材開発のモデルを提示していますね。
まとめ:COSMOSが実現する4つの価値
- 関係性の構築:リモート環境での「給湯室」機能の実現
- 自律的成長:当事者主導による継続的な学習とスキルアップ
- 組織貢献:個人の成長と組織の発展の同時実現
- 人間性の保持:AI時代における仕事の醍醐味の維持
次回予告:【第5回】専門性にこだわらない働き方 ~変化に対応する柔軟性の獲得~
リモートワーク環境での人間関係構築について、皆様はどのような工夫をされていますか?次回は、変化の激しい時代に求められる「専門性を超えた柔軟性」について議論します。
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【対談者プロフィール】
Mamasan&Company 株式会社田中 茂樹 (たなか しげき) 代表取締役 | 企業の経理・情報システム部門を経て、在宅ワークチームの運営モデルを創出。その経験をもとにMamasan&Companyを創業。4000ID規模のリモート運営において業務プロセスの可視化・再構築を実現し、組織の生産性向上と人的資本経営の実践に豊富な知見を持つ。 |
| 人的資本やイノベーション政策を横断的に研究し、政策・学術・実務をつなぐ専門家。多数の企業や自治体において、理論を実務に落とし込む支援や講演を実施し、組織運営・人的資本経営に関する深い知見と実践的アプローチを提供。 | 雇用系シンクタンク iU組織研究機構 松井 勇策 (まつい ゆうさく) 代表理事 ・社労務士 |





