働き方改革の影響を受け進められてきたテレワーク化も、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、多くの企業が導入せざる得ない状況でした。落ち着かない情勢に、テレワーク導入企業も一時的なものから継続的なものとして捉えるようになりました。
そこで注目したいのが、新たに政府が推進する「ワーケーション」という働き方です。
ワーケーションは、有給休暇の取得率向上や離職率の低下など、企業側にも従業員側にもさまざまなメリットがあります。しかし、多くの企業が導入に関して無理だと感じるデメリットも存在するでしょう。
日本航空(JAL)では、2017年からトライアルとしてリモートワークでの働き方を強化し、ワーケーションとしての実施を進めてきました。今回は、日本航空など導入企業の事例と、政府が勧めるワーケーションのメリット、また注意すべきデメリットを合わせて紹介します。
ワーケーションとは?「ワーク」+「バケーション」
ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を合わせて作られた造語です。休暇を取りながら旅先や観光地などで仕事を行うことを意味し、仕事と休暇を両立させることが目的の働き方です。「ワーク」が示すのは主にテレワークであり、普段の業務を滞在先で行うことをワーケーションとしています。
技術の進歩から生まれた働き方
日本では1990年代頃から、情報通信技術の発展とともにIT企業を中心にリゾート地でのリモートワーク導入が進められてきました。生活拠点から離れ、リラックスした状態で仕事と向き合うことができるため、生産性の向上が期待できる点や有給休暇取得のしやすさなど、さまざまなメリットによって導入が勧められています。
政府が勧める「新たな旅行のかたち」
政府は新たな旅行のかたちとして、ワーケーションを推進しています。
その背景には、新型コロナ感染拡大により新たな生活様式が求められるなか、国立・国定公園や自然など感染リスクの少ない環境で過ごすことによって、心身のリフレッシュやアイディアの創出にもつながるなどのメリットが挙げられます。
また、自粛によって起きている社会の閉塞感を解消し、観光地の活性化、地域経済の再生を目的としています。
出張や単なるリモートワークとは別物
ワーケーションは、あくまで仕事と休暇を両立することを指し、本来の職場以外で業務を行う「出張」とは別の意味を持ちます。出張は多くの場合、本来の職場から離れた営業先やサテライトオフィスなどでリモートワークを行うもので、「休暇」の要素はないのに対し、ワーケーションは、それぞれの会社規定によりますが、業務を行う場所を観光地や国内外問わず、働き手自らが自由に選択でき、リフレッシュ休暇の要素を兼ね備えたものになります。
また、勤務中の外出先や自宅などで仕事をする一般的なリモートワークとは違い、あくまでも働き手が休暇中に訪問先、宿泊先などで働くスタイルをワーケーションとしています。
政府が推進!ワーケーション導入事例と取り組み
新型コロナ感染拡大による経済への影響や、外出自粛によって子どもたちを含めた多くの人々が受けているストレスを緩和する措置として、政府は「ワーケーション」を推進しています。
これまで、いち早くワーケーションを導入し実施してきた日本航空(JAL)における事例と、さまざまな企業や自治体が取り組むワーケーション事情を紹介します。
日本航空(JAL)
2017年7月より日本航空(JAL)では、新しいテレワークのスタイルとしてワーケーションを実施しています。
これまで、在宅勤務によるテレワークを実施してきたものの利便性が低いことで利用する従業員が少なく、帰省先や旅行先など場所を問わないテレワークへ移行したことで利用者が年々増加し、有給休暇取得の促進に繋がりました。
パイロットや客室乗務員を除き、夏季(7月~8月)に最大5日のワーケーション取得が認められ、心身のリフレッシュやモチベーションのアップが期待されています。
福利厚生としての導入
働き方改革により、従業員満足度(Employee Satisfaction)の向上が求められる現在、福利厚生を目的として企業がコワーキングスペースを契約するケースが増えています。都心から離れ、心身ともに落ち着ける場所にワークスペースを設けることで、従業員は仕事をしながらリフレッシュしたり、静かな環境で集中して業務を行うことが可能になるでしょう。
仕事をしながら休暇を楽しむことができるため、有給休暇取得の促進や労働生産性の向上も期待できます。
さまざまな自治体による取り組み
ワーケーションを導入する企業だけでなく、日本のさまざまな地域でもワーケーションに対応する取り組みが進められています。
例えば、和歌山県では先進地となるべく、いち早くワーケーション誘致を開始しました。北海道では、その土地ならではのプランを用意し、「休暇・観光型」と「仕事・業務型」で受け入れを進めています。
また長野県では、東京からのアクセスが便利な代表的リゾート地である軽井沢へ「リゾートテレワーク拠点」としての誘致を進めています。実際には、インターネット環境が整う大規模商業施設の設置や、地域理解を深めるアクティビティ、地元企業と協力してワーキングスペースやサテライトオフィスを提供するなど、その取り組みはさまざまです。また、日本全国の宿泊施設の中には、ワーケーションプランと称し、長期滞在者に対して割引を行うなどのサービスを実施している施設もあります。それぞれの自治体や地域で、ワーケーション誘致のための施策実施や環境の整備などを行い、その地域や観光地の活性化へと繋げています。
海外のワーケーション導入事情
海外でのワーケーション導入への意識は、あくまでも休暇がメインです。日本と比較した際、カナダやフランス、シンガポール、香港などでは有給休暇の取得率は高く90%を超えています。
ワーケーションを実施する際にも選択肢は広く、セキュリティや勤怠管理の面で旅行先や働く施設に制約がある日本とは違い、旅行先の環境に合わせて働くことも多いでしょう。海外では、企業規模に関わらず、テレワークが実施できる職種においては、さまざまな企業でワーケーションの実施が行われています。
【参考】「エクスペディア 世界11地域 有給休暇・国際比較調査2024を発表」
ワーケーション導入のメリットとは?
新型コロナ感染拡大により、政府が新たに推進する「ワーケーション」には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ワーケーションを導入する企業側のメリットと、実施する従業員側のメリットをそれぞれ見てみましょう。
企業側①:休暇取得の促進と離職率低下
ワーケーションを導入することで、企業側は従業員に長期休暇の取得を促しやすくなります。
家族との旅行や帰省もしやすくなることで、ライフワークバランスが充実し、心身がリフレッシュした従業員による労働生産性の向上が見込めます。業務効率化の新しいアイディアが生まれたり業務クオリティアップの可能性も広がるでしょう。
また、これにより離職率の低下や優秀な人材が定着しやすくなる効果も期待できます。
企業側②:従業員満足度の向上や採用アピール
働き方改革には、労働生産性の向上、離職率の低下や採用の強化、従業員満足度の向上が挙げられています。
ワーケーションの導入・実施は、従業員の働きやすい環境や体制づくりをサポートすることになり、従業員満足度のアップにつながります。また、充実した福利厚生システムの存在は、新たな人材の採用段階で自社の魅力をアピールする効果的な訴求ポイントにもなります。
これらのことから、ワーケーションの導入が企業側にとって様々なメリットをもたらすことは明らかです。
従業員側①:長期休暇や有給休暇が取得しやすい
厚生労働省の「平成31年就労条件総合調査」によると、企業が付与した有給休暇日数が平均18日に対し、取得した日数は9.4日、有給休暇取得率は52.4%でした。仕事のボリュームや立場などによっては、長期的な休暇が取りにくい場合があるでしょう。ワーケーションを活用すると、休暇中の旅先でもリモートで仕事をすることができるようになり、定例会議や取引先との連絡など、重要なタイミングに対応することが可能です。緊急時の対応が滞在先でも行えるため、有給休暇や長期休暇も取りやすくなるでしょう。
従業員側②:自由度が高く生産性向上が期待できる
ワーケーションは勤務時間内で働くスタイルとは違い、企業毎に自由に使っていい時間が設けられており、従業員は企業側により本来決められた勤務時間・時間帯・曜日といった枠に縛られることなく時間を自由に使うことができます。そのため、旅先で家族とともに時間を共有し、観光やアクティビティを満喫することも可能でしょう。また、休暇の間に勤務日の設定も可能なため通常よりも休暇を長くとりやすいことや混雑しやすい時期を避ける旅行プランを立てることもできます。
さらに、普段と違った環境で仕事をすることができるため、クリエイティブな発想や生産性の向上も期待できるでしょう。
ワーケーション導入は無理?デメリットとは
働き方改革の一環として、ワーケーションを取り入れることは企業側にも従業員側にもさまざまなメリットがあると言えます。では、メリットとは反対に、デメリットになり得る不安要素や懸念点はどのようなものがあるのでしょうか。
さまざまな企業から導入が無理だと言われるワーケーションの課題やデメリットについて、企業側と従業員側それぞれの視点から確認してみましょう。
企業側①:労務管理の難しさ
ワーケーション実施の際は、従業員の動きが見えにくくなるデメリットがあります。そのため、勤怠管理が難しくワーケーションの際の勤務時間や、業務内容を評価することが困難になるでしょう。
勤務体制による評価方法や、管理方法を事前に取り決めておく必要があります。勤怠ルールを設けて整備をする、またリモートワークに対応した勤怠管理システムを導入する、さらには成果報酬型など、解決のためのさまざまな事例や対策があるでしょう。
企業にとっても、従業員にとっても、互いに納得のいく方法を整備することが必要です。
企業側②:セキュリティへの不安
政府が推奨するテレワークの導入と同様に、セキュリティに関する整備はとても重要な課題です。どのように業務にあたるのかは、それぞれの職種や作業方法により異なります。パソコンやタブレットなどのデバイスを旅行先へ持参し、ICT(情報通信技術)を用いて業務を行う場合にはソフト面、ハード面ともにセキュリティ対策が重要です。2段階認証を取り入れる、Wi-Fiのアクセス制限を設けるなど管理強化を徹底しましょう。
また、リゾート地での盗難や紛失には十分な注意が必要です。
従業員側①:労働時間の曖昧さ
本来であれば、休暇は仕事をしないのが当たり前ですが、ワーケーションはあえて旅行先で業務を行います。仕事を持ち込んで、旅行することを前提にしているため、仕事と休暇の線引きが曖昧になります。さらに、リモートでの会議が長引き旅行プランが崩れたり、家族と過ごす時間よりも業務を行う時間の方が長くなるなど、労働時間が思いのほか伸びてしまうといったデメリットもあるでしょう。
従業員側②:滞在先が選べないことも
旅行に出かける際には、行き先を決めるのも楽しみの一つです。しかし、ワーケーションを前提とし旅先を選定する場合には、行き先や宿泊施設が限定されてしまうこともあるでしょう。企業によっては、日本国内のみワーケーションを許可する場合や、使用できるWi-Fiが制限されるなどもあり、希望する滞在先を選べない可能性もあります。ワーケーションの実施を検討する際は、就業規則や宿泊予定の施設設備などを事前に確認しておきましょう。
日本を活性化させるワーケーション
ワーケーションとは、観光地などへ訪れ休暇をとりながら仕事をする、新しいワークスタイルです。
新型コロナ感染拡大による閉塞感の解消や、地域経済の再生、活性化を目的に政府はワーケーションの実施を推進しています。
ワーケーションは、導入する企業にも実施する社員にもメリットがある反面、制度やルール、環境の整備などの課題やデメリットもあるため、慎重に検討する必要があります。企業や従業員だけでなく、観光地や地域にとってもプラスに働くワーケーションという新たなワークスタイルについて、メリットとデメリットを比較しながら導入を検討することをおすすめします。
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